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京都舞鶴にある東舞鶴公園の近く 学校法人 聖山学園 ひばり幼稚園

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心の通信

仏典童話

天人てんにんになったトラ」

(1)

今日は、花まつり。
色とりどりの花が飾られ、花御堂はなみどうのまわりに、多くの人々が集まりました。
一人のお坊さんが、花御堂はなみどうそばにも座らず、お経も読まず、花祭りに来た人々一人ひとりに、出会うたび、ふかく、ふかく、あたまをたれ、ひざまずきました。

「あなたは、とうとかたです。」
そのお坊さんは、こころからそういうのでした。
若い人にも、年寄りにも、男でも、女でも、大きな人にも、小さな人にも、金持ちでも、貧しい人にも、いやいや人間だけではなく、 花や木や動物にも、生きとし生けるものすべてにそのお坊さんはいわれたのでした。

(2)

ある日、あばれんぼうのトラがあらわれました。トラは気が短く、荒々しく、ちょっと気に障ることがあると、まわりの生きものに吠え、かみつきました。みんな、そのトラを恐がってきらっていました。 自分ことしか考えないトラのあまりのひどさに、なんとかしなければならないと、お坊さんが百人集まって相談することになりました。

「みんな、あばれんぼうのトラのことは、聞いていると思う。」 「いやもう、そのひどさはこのあたりでは知らないものがないほどだ。」 「むかし、徳の高いお坊さまが、生きとしいきるものは、みな仏さまだといわれたが、あのトラだけはどうしようもない。地獄じごくに落ちるしかないだろう。」 「どうしたら、あのトラを救うことができるだろうか。」

お坊さんたちは、相談をして、代表のお坊さん3人が、あばれんぼうのトラに説教することになりました。

「おい、暴れん坊のトラよ。お前の悪行は、それはひどいものだ。わしらの説教せっきょうを聞いて、おとなしくなり、良いことをしなければならんぞ。」

お坊さん3人が、トラに説教せっきょうをはじめると、トラは暴れだしました。

「お説教などもうたくさんだ。帰れ、帰れ。」 トラは、鬼のような顔をして今にも食い殺さんばかり勢いで3人に吠えかかり、かみつきました。

お坊さんたちは、必死ひっしになって、われ先に逃げだしました。
トラは、3人のお坊さんを追いかけました。 お坊さんたちは、村にあるお寺に逃げてきました。 お寺では、花まつりがおこなわれていました。たくさんの人々が集まっていました。人々は、トラがやってきたので、あわてて逃げまわりました。ところが、花御堂はなみどうの前に赤ん坊が取り残されました。トラは、赤ん坊に近づきました。赤ん坊は、トラを見ても笑っていました。その笑い顔は、明るくかわいいものでした。 不思議なことに、トラはおとなしくなり、赤ん坊とたわむれはじめました。トラはやすらいだ顔に変わりました。じらくすると、トラは疲れたのか、うずくまり寝てしまいました。夢の中で、トラに話しかけるものがいました。

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「暴れん坊のトラさん。あなたはとうとい方です。あなたは、天人てんにんに生まれ変わるでしょう。」

トラの目の前には、赤ん坊ではなく、むかし見たことのあるお坊さんがあらわれました

トラが小さいとき、
「あなたは、とうとい方です。」
と、はなし聞かせていたお坊さんでした

トラが目を覚ますと、光に包まれ、悪いこころは消え、天人てんにんの姿に変わりました。
そのお坊さんは、人々にいわれました。

「大切なことは、すべての生きとし生けるものを救おうとするならば、こころを安らかにし、はからいらいを捨て、よく考え、慈悲じひの心で包むことだ。3人のお坊さんが、トラを救うことが出来なかったのは、自分は偉い人間だと、おごりのこころで説教せっきょうをしようとしたからだ。正しい智慧ちえとは、そのようなものではない。」
その後、花まつりは人々が仏のこころをとりもどすための大切な行事として、おこなわれたるようになりました。

『旧雑譬喩経』 57話より

過去のアーカイブ

・仏典童話「いねむり和尚」

・仏典童話「あたたかい手」

・仏典童話「天人になったトラ」

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